May 25, 2012

UNDERGROUND



今日の夜は、ひとりでごはんを食べなきゃいけない夜だった。
そんな日は、普段ボンボンなボーイフレンドや、イイトコの子な友達たちが一緒に行ってくれない、ファストフード屋さんに行ったりする。
夕飯にバーガーなんて。ザ・不健康。
でも、その生産性のない食事が、きらいじゃない。


とにかく。


ぼーっとハンバーガーを口に入れながら、店の入り口の方を見ていたら、三人組みの女の人が店に入ってきた。
正確には、三人の内ふたりが先に入ってきて、最後のひとりが後から遅れて入ってきた。
わたしより3つか4つくらい年上に見える3人は、平均的にかわいい顔をしていて、平均的におしゃれをしていて、平均的に頭も悪そうだった。 さっきまで静かだった店内が騒がしくなる。
それまで見つめていた空間を、その3人が占めるようになると、そのままわたしは3人を眺めるようになった。
彼女たちの服装、体型、髪形、、、どこにでもいる。
会話の中身が意味をなさずとも耳になだれ込み、それをわたしはそのまま受け流した。
元から意味なんかないんだろうなー、とか思いながら。


でもひとつ言っておくと、たぶん、彼女たちはそんなに悪くなかったと思う。
ただ、わたしが、女の人がすきじゃないんだと思う。


彼女たちを見るのにも飽きて、わたしの意識もまたどこかへ流れていきそうになったとき、最後に遅れて入ってきた女の人の、目がぐらっと揺れた。歪な月みたいな目。

しかも、それをわたしは見た。

その人の目は、ぐらっと揺れたと思うと、見る見る大きくなった。
大きくなればなるほど、すーっと透明になって、そのまま、あっちへこっちへゆらゆら揺れて、光をどんどん吸い込んだ。
そうして吸い込んだ光は、波立つたびに、どこかへぽいと捨てられた。
目が揺れる間、鼻は、きゅっと赤くなった。
その人は、落ちつかなげにうろうろしたあと、最後に、もう限界になった、とでもいうように、くいっとすこし上を向いた。
こぼれそうになるものを、こぼさないように、くいっと。

すぐ近くで会話してるふたりは、そのひとりの様子に気づかなったみたいだったけど、わたしはどういうわけか気付いてしまった。そして、目が離せなくなった。
だって、ひとりの女の人が、必死になみだをこらえてるところを見たのは、生まれて始めてだったような気がしたし、その姿がすごくきれいだった。一瞬でその人のことがすきになった。

どういうわけか、悲しいものはきれいに見えてしまう傾向があると思う。




今日は、わたしも泣いた。
彼氏の家で、借りた敷布団が押し入れに入らなくて、泣いた。

もちろん、それだけが理由じゃない。
でも最終的には、敷布団が押し入れに入らないことが悔しくて、悔しくて、泣いた。
そもそもなんで、敷布団で寝なきゃいけないんだ。彼氏はふかふかベッドで寝てるのに。
しかも、それをなんでわたしがしまわなきゃいけないの。
なんでそんなの当然でしょっていうの。
わたしはすきでこの布団で寝てるわけじゃないのに。
お前が、今日は徹夜明けで寝れてないからこっちで寝てよっていうから、せんべい布団も我慢したのに。
「なんでいっつも自分のことしか考えてないの!」
って言ったら、君がそう思うんだったら、僕らの信頼関係は終わってるね、って言ったでしょ。
そのとき、そんなこととっくに知ってるよ、って思ったことも、知らないでしょ。
だから、黙った。
そんで、泣いた。
その自己中心的なボンボンのことが、大好きで仕方がないわたしは、敷布団が恨めしくて、泣いた。

そのときは、ぐわっと感情にのまれてその場で泣いちゃったけど、普段は我慢する。
悲しいことがたくさんあるわけじゃないんだけど、気分の上下が激しいから、わたしはすぐ泣く。
自分が特に理由もなく、泣くことがあるのをわかってるから、相手がびっくりしちゃわないように、泣きたくなっても後で隠れて泣く。

そういう日は大体、帰り道の地下鉄で泣く。
黙って、座ってると涙がこみ上げてくる。
そうやって、何からも隠れてないし、むしろ人はたくさんいるっていうのに、座席の端っこで、いつも、めそめそ泣く。
泣いてるときに顔をあげてみたことはないけど、たぶん気付いてるよね、周りの人。
でも、地下鉄で泣くときが、一番誰にも見られてないような気がしてる。
なにもかもから隠されてる瞬間だと思ってる。
人に紛れれると、自分が消えるんだと思ってるんだと思う。
そうやって、灰色と暗闇が交互にやってくる地下鉄の中で、感情を清算しようと試みる。


うまくいかないことの方が多いけど、すこし気分がよくなる。


別れ際、彼は、「お前なんかさっき号泣してなかった?ううっとか言って。」と冗談交じりに言ってきた。
そうやって、軽ーく、わたしが泣いてたことに言及することによって、彼が自分が言ってしまったことばを取り戻そうとしていること、そのことばを信じてはいないことをわたしに伝えようとしていることをわたしは知っていたし、彼もたぶん、わたしが知ってることを知っていたと思う。

なにかが丸く収まった。
わたしたちは、信頼関係に代わる、全く別のものを持っているから、やっかいなのかもしれない。




ファストフード屋さんでは、3人組は、それぞれテイクアウトで頼んだものを受け取ると、すっと出ていった。
目に涙をためていた人も、いつの間にか、他の二人の会話に入って、けらけら笑ってた。
相変わらず平均的なかわいさ。どこにでもいる。

わたしも店を出て、地下鉄へ向かった。






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